はしがき
丸一型日付印に遅れること1年,1989年は丸一型鉄郵印が登場して100年目にあたるということで、<JAPEX’89>の特別企画展示として構成する機会をいただき、 全国の鉄道員収集家のご協力を得て、全15フレーム・180 リーフにわたり、展示することができました。
鉄道郵便を語るには、どうしても必要な丸一型鉄郵印の前身の「停車場」(1875 1889)を加えたため、実質的には1年間の鉄郎川の流れの展示となりました。州 めは180 リーフも作成できるのかと不安でしたが、片上の休日が少なく、ほとんどがインタイアやはがきでしか展示できなかったため、結局は残念ながら割愛 たものも少なくありませんでした。
本書は、今回の特別企画展示のケリーフを中心に、総論にはさらに鉄道創業時の郵便逓送事情も加え、114年間の鉄道郵便の歴史を構成していますので、鉄道印愛好家だけでなく、多くの収集家にも鉄郵印のご理解に役立つものと思います。
なお、本書はリーフ作成,総論、図版解説のすべてを北出ひとりで受け持ったため、独断的なところも多々あり、また文中不行き届きな点も多いと思います。
今後ご指摘、ご指導をいただければ幸いです。 昭和40年頃,膨大な鉄郵印コレクションを快く譲っていただいた放川金治氏に「必ず鉄郵印の本を出す」と約束しましたが、25年振りに実現できたことは、 日本郵趣協会、,JAPEX〉実行委員会, 日本郵趣出版のご協力のお陰と感謝して今回の特別企画展示及び本書の刊行にあたり、ご協力いただいた収集家各位に厚くお礼申し上げます。またとくに列挙しませんが、各種文献,とくに鉄郵印グループ機関誌「てつゆう」誌上の記事を参考にさせていただいたことに、感謝の意を表する次第です。
1990年1月
刊行にあたり
1871年(明治4)3月,わが国にはじめて近代郵便が創業され、間もなく110年を迎えよう としています。明治維新政府の数多い新政策のなかで、郵便事業を国家の手で統一し,全 国津々浦々へ安い料金で、郵便を迅速・正確にとどけようという方策は,《近代化>と中央 集権化を急速に進める上でも, 重要な課題でした。したがって、乏しい予算の中で、相当 に無理をした,組織化が進められ, とにかく数年で全国に郵便網が構成されました。
その経過などについては,山口修先生が本書中,「郵便局沿革概要」で解説されています が,この組織化を進めるとき,正確な記録が,きちんと作られていかなかったため,今日 にいたるも,わが国には全国郵便局の沿革録が存在しません。驚くべきことですが,この 事情について、本書を監修された,山口修先生は次のようにのべています。
『周知のように,わが国の近代郵便は明治4年(1871)に発足しましたが,当初は“郵便 役所”と“郵便取扱所”が並立しております。やがて明治8年に至り,すべて“郵便局”の名称 に統一されました。ところが,この間における局所の設置および改廃の状況は,決して明 らかでありません。各年度の《郵便規則》が,年ごとの局名を挙げていますが,設置の年月 日は示していません。しかも明治の前半期は,府県の改廃や統合,また管轄区域の移動が 多く,配列も郵便線路に沿って、旧来の“国”ごとに示されています。各局がそれぞれ現在 の何県のどこに当るのか,確かめなければなりません。
また郵便局は,事業の進展にともなって、つぎつぎに新設され,また改廃をくり返して います。さらに郵便のほか,為替貯金,電信電話の業務も取扱うようになってゆきます。 逓信省が発足して《逓信公報》が刊行されるようになってから後は,たんねんに公報を検索 することによって,新設や改廃の状況も,大要はつかむことができます。しかし公報の記 載にしても,必ずしも完全ではありません。とくに“郵便受取所”から無集配三等郵便局へ の移行など,公報の類には記載されてないことが普通なのです。このほかにも,文献の上 には現われず,日附印によって存在が推定される郵便局も,少なくありません。どんなに変遷が激しくても,すべて記録があれば,郵政省も何とかして,沿革録を作ったと思います。いまから10余年前,郵便創業100年を迎えるにあたり,同省は100年史編纂室を設け,重要な文献資料を数多く出版しました。しかし郵便局沿革録だけは、遂に刊行にいたらなかったことを見ても,それを作ることが,いかに至難なものであるか,想像できると思います。