本日は、東京国立博物館から刊行された、特定の工芸ジャンルを深く掘り下げた2冊をご紹介します。どちらも40ページ程度の薄冊ですが、その道のエッセンスが凝縮された、資料性の高い図録です。

1.『自在置物』:超絶技巧のルーツを辿る
近年、その驚異的な可動メカニズムで世界的な人気を博している「自在置物」。本書は、その名称の由来や歴史的背景を鋭く紐解いた一冊です。
「自在」という名の由来:実はこの名称、東博収蔵の明治40年の作品「純銀製 自在龍」の箱書きが由来。江戸時代には「御文鎮」や単なる「置物」と呼ばれていた事実など、名称の変遷に迫る記述は非常に貴重です。
海外からの熱い視線:明治期に輸出され、西洋で「ARTICULATED ANIMALS(関節を持つ動物)」として驚嘆を持って迎えられた経緯を、当時のフランスの美術雑誌などの資料とともに解説しています。
職人魂の結晶:鉄や銀で龍、蛇、鳥、昆虫を写実的に再現し、本来の機能通りに動かす。その執念とも言える職人技の歴史を一気に俯瞰できます。
2.『水滴』:掌に収まる宇宙
書に欠かせない「水滴」に焦点を当てた、これまた珍しい一冊。実用具でありながら、そこには工芸家のあらゆる技巧が注ぎ込まれています。
文房具としての小宇宙:掌に載るほどの小さな器の中に、いかにして四季の情景や瑞獣が表現されてきたのか。
多彩な素材と形:陶磁器から金属製まで、東博の質の高いコレクションを通じて、その意匠の妙を堪能できます。
資料としての希少性:大きな仏像や絵画に比べ、専門の図録が作られる機会が少ない「水滴」。薄手ながらも、愛好家にとっては手放せないリファレンスとなるはずです。
まとめ
この2冊に共通しているのは、「あえて一点を深掘りする」という東博ならではの専門的な姿勢です。 ページ数が少ないのは、言い換えれば「無駄な情報が一切ない」ということ。専門家やコレクターが知りたい核心部分だけが詰まった、まさに「知のハンドブック」。
本棚の隙間に収まる薄さながら、その中には職人たちの息遣いが今も聞こえてくるような、重厚な歴史が閉じ込められています。





