声明大系など仏教書買取事例。このアイテムは本ではなく、正確にはレコードになります。LP28枚収録 ありがとうございました。

当巻「一南都」をもって、『声明大系』(全七巻・別巻一)は完結いたします。昨昭和五十八年九月に、第1回配本と して「三 天台」および「別巻 多紀道忍独唱天台声明」を発行して以来、全巻をほぼ予定通り一か年余の間に刊行する ことができました。また、並行して編集を進めていた特別付録の『声明辞典』も、当巻発行とほぼ同時にお届けできる ことになりました。
現在まで伝えられている声明は、あまりにも多彩多様で、どんな方法によってもすべてを覆い尽くすことはできませ ん。いわんや、わずか二十八時間(別巻を除く)という極限的な時間量の中に、日本の仏教のもつ「音楽的なるもの」 の全容を収録することは、至難の業であります。
– いま、このレコード盤二十八枚を製作するに要した数字を思いつくまま挙げてみますと、宗派数三十三、法要・法会 数五十三、声明曲数(数えかたによって若干の差は生じますが)四百五十余、演唱者数(大法要での実況も含む)約一千、そ して録音総時間数は約三百五十時間となります。
このようにして得られた音源を素材に、典礼の構成や音楽的特質、また既存の音盤やテープとの兼ねあいなど、種々 の観点から取捨選択を加え、さらに技術上の因難さを克服して、LP盤全二十八枚に凝縮して成ったのがこの『声明大 系」です。
本来音楽は、極めて変りにくい保守的な側面と、一方で非常に移ろいやすい側面とを併せもつ微妙な「生きもの」で す。仏教の「音楽的なるもの」とてその例外ではありません。現在の法要や声明曲が、数百年の間を通して不変のまま 伝えられて来たということは考えられず、今後についてもまた同様でしょう。しかしながら、その移ろいやすさの中に、 不変のものが秘かな形で含まれていることも、また確かな事実です。そのような観点から、この『大系』に収められた 現代日本仏教の「音楽的なるもの」は、日本の過去と現在の大きな文化財であると私たちは考えています。
「声明レコードの分野で、このように大規模で総合的かつ体系的な出版物を制作するというまれにみる機会に、私ども は恵まれましたが、この『大系』が各方面の研究者・実修者に広く活用されることを切望するとともに、引続いてこれ を上回るような企画が推進されることを期待しています。
先に挙げた数字にその一端があらわれているように、この企画の実現にお力添えいただいた演唱者・執筆者をはじめ多くの方々のお名前を逐一あげることは不可能なことですが、この場を借りて、心からお礼申し上げます。
また、この業が成った最大の功労者が、法蔵館編集部の美谷克実氏であることは、関係者のひとしく認めるところで す。この企画に対する氏の働きは、まさしく「獅子奮迅」の形容にふさわしいもので、美谷氏の存在なしには、この業 は一歩も進まなかったと考えられます。
また、いくつかの音源をご提供いただいた東京国立文化財研究所、「声明譜」の版下作成にたずさわられた河井賞味 氏はじめ法蔵館のスタッフの方々に、感謝の意を表したいと思います。そして、日本コロムビアの、村上雅也・河野立 雄画ディレクター、小林正義レコーディングエンジニアをはじめとする録音部の方々に、厚くお礼を申し述べます。
昭和五十九年十一月|
編者